
家族信託は、資産の管理や承継を目的として利用される制度ですが、「相続税の節税効果があるのか?」という点については誤解されがちです。家族信託=節税というイメージを持っている方も多いですが、実際にはその仕組みを正しく理解しておくことが大切です。本コラムで分かりやすく解説していきます。
結論から言うと、家族信託そのものには直接的な相続税の節税効果はありません。信託契約を結ぶことで財産の名義が受託者に移っても、税務上は「委託者がそのまま保有している」とみなされるため、相続税の課税対象は基本的に変わらないのです。たとえば、父親が自宅を信託し、長男を受託者にしても、その父親が亡くなった時点でその不動産は父親の相続財産として評価されます。
ただし、家族信託には間接的に節税につながる可能性がある場面もあります。たとえば、不動産を信託し、子が管理・運用することで収益物件としての活用が進み、評価額を抑えながら資産を次世代に引き継ぐことができるケースです。また、生前の財産移転の計画が明確になり、相続発生後のトラブルや無駄な税金を回避できる点も見逃せません。
さらに、成年後見制度と異なり、家族信託では将来的に委託者の判断能力が低下しても、あらかじめ定めた内容に沿って資産の管理が続けられるため、不動産の売却や資産整理が止まってしまうリスクを避けることができます。結果的に「資産凍結」による機会損失や、相続税納付のために急いで売却して損をするような事態を防げるのは、広い意味での“経済的メリット”といえるでしょう。
たとえば、評価の高い収益不動産を持つ高齢者が、生前に家族信託を活用して子どもに管理・運用を委ねておけば、早い段階から必要な資産整理が可能となり、相続時には適切な時価評価に基づいた申告がしやすくなるといった効果も期待できます。
本コラムでは、家族信託による節税効果の有無について解説しました。直接的な相続税の節税効果はありませんが、資産の管理・運用を事前に設計できる点で、間接的な節税やトラブル回避に役立つ制度です。導入前には専門家の意見を取り入れ、信託設計を慎重に行うことが大切です。